2009年08月03日

葉の鮮やかな夏ですね連載中(三)です

今の季節、葉の青々しさが輝いてますよね。
葉脈の一本一本から、隅々までエネルギーが満ちている感じがします。

わたしには、ちゃんとエネルギーがあるだろうか?

ぐっと力いっぱい手を開いてみて。
うん、元気!
ぐっと力いっぱい手を結んでみて。
うん、頑張ろう!



葉に負けないよう、夏を、強く堂々と過ごしたいと思います。



さて、今日は連載第三話。
遠距離微恋愛(疑問形)の彼ら…
レッツシリアス(疑問形)





 * * * * *



「平行線をたどる日々」





 住みなれたシルバーリーブはやっぱり居心地が良かった。

 でもトラップとシロちゃんがいないと、やっぱり調子が狂ってしまう。



 狂いっぱなしの毎日が、たんたんと過ぎていった。



 それでも、意外と平気な自分がいた。



「パステル、起きたのか」
「んー。ごめんねクレイ、寝坊しちゃった」
「大丈夫。原稿、お疲れさん」

 階段を下りていくと、クレイが一人、剣を手入れしていた。

 夕べ、小説の締切をひかえていたわたし。
 ここ数日は寝る間も惜しんで机に向かっていた。
 印刷屋に駆けこんで、帰ってきてからの記憶がないのは…たぶん、すぐに寝ちゃったからなんだろうな。
 おかげで今朝はぐっすり眠ってしまった。

「ね、ルーミィは?」
「ノルと散歩。キットンは知らないけど、どっかフラフラしてるよ、いつもどおり」
「そっか」

 トラップは?
 シロちゃんは?

 ――聞かなくても、わかってる。

 わたしたちはすっかり日常に戻って、彼らを待っていた。
 打てるべき手は打った。
 もう待つこと以外にできることはない。

「パステル、お腹すいてるだろ? なんか食いにいこうか」
「あー…でももうすぐお昼なんだよね。それまで待ってようかな」
「そっか?」
「うん。じゃー、それまでもう一眠りしてこよっと!」
「パステル」
「ん?」
「無理するなよ」



 いつの間にか剣を置いていたクレイが、わたしを真っすぐに見つめていた。
 真っすぐに、わたしを包むように。



「……無理してるように見える? わたし」
「んー、いや。それほどでもないけど」
「じゃあなんで?」
「はっはは。なんでだろーな? ただ、なんとなく言いたかったんだ」



 変なこと言ってごめんな、と。
 顔をくしゃくしゃにして笑うクレイが、なんだか不思議に見えた。
 子どもみたいなのに、大人っぽい。
 笑ってるのに、泣いてるみたい。

 優しいこの人が、仲間と、とくに幼なじみの親友とこんな形で離れて、平気なはずがない。

 なのにわたしの心配をしてくれてる。



 嬉しくてありがたくて、胸苦しい。



「無理は、してないよ」

 なんとなくクレイの傍らの剣を見つめながら、ぽつりとこぼした。
 もしかしたらわたしは上手く笑えていないかもしれない。
 何度か命を助けてもらったそれが――今、ひどく、憎らしいから。

「大丈夫なの。ほんとに、ぜーんぜん平気」
「そっか」
「シルバーリーブは落ち着くし、ご飯はおいしいし、ちゃんと眠れるし。みんながいてくれるし」
「うん」
 優しいクレイの声が、するするとわたしの心をほどく。
「ひどいよね。いつもどおり、生活できちゃうの」
「……パステル」

「でも。だから、…こわい」

 戦いは終わったのに、どうして剣がここにあるんだろう。
 戦いは終わったのに、どうして――ここにいないの、彼らは?

「こんな状態、認めたくないのに、慣れてきちゃいそうで………こわい」



 良いことだってわかってる。しっかり日常を生きること。

 だけど、じわじわとぞわぞわと、はい上がってくる蟻のような不安。
 毎日を繰り返すごとに増えていく。
 今はもうびっしりと、わたしを覆っている、黒い群れ。
 こわい。
 動けない。



 このまま、彼らがいない日々がどこまでも続いたら、それが日常になってしまったら。

 もう二度と、トラップの思いとわたしの思いが交わらないとしたら。

 それでも、普通に暮らしていける。たぶん。
 起きて、食べて、小説書いて、寝て。
 そのうち、当たり前になる。彼らがいない日常が。
 で、冒険に出て…思い出が増えていって……

 ……そんなのってない!



 考えても仕方ない恐れを振り払えるのは、伝説の剣でも、同じ恐れを隠し持っている仲間でもない。



 今ここにいない人にしか、できない。



「パステル」

 やがて、うずくまったわたしに寄りそうように、クレイが隣にしゃがんだ。

「…………なあに?」

「シロはともかく。トラップが帰ってきたらさ、ぶん殴ってやろうな」

「…………うん」







「ぱぁーるぅぅぅーーーーー!! しおちゃんね、あのね、かえってきたおーーー!!」



 突然、なんの前触れもなく扉を突き破って飛びこんできた叫びが、黒い不安を光に溶かすように消した。

 ――狂いっぱなしの毎日が、



「ただいまデシ! クレイしゃん、パステルおねーしゃん!」



「シ…シロ!!? 無事だったんだな、よかった…! ノル、どこで!?」



「村はずれで、会えた。……今、キットンと後から、」



「まったく久しぶりだってのに、あなたって人は相変わらずですねえ! あぎゃぎゃ! いい、痛いですよ!」



「相変わらずなのはてめーだよ! うるせーっての!」



「お…おい、トラッ…プ!?」



 狂いっぱなしの毎日が、

 あっけなく、終わった。





「いよっ、久しぶり。元気にしてたかよ?」



「――………!!」





 とりあえず、ぶん殴ってやった。







「微妙な距離のふたりに5題」より

(C)確かに恋だった
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