梅雨入りしたそうですが父の日

2007年06月18日

父の日公演SS

かわいくねえ


 父の日。
 それは父親に感謝を捧げる日。

「っつーわけで、崇めろ! 敬え! 奉れ!」
「やだもん! トラップなんか父親らしいこと、ろくにしてないくせに!」
「ああ!? てめーに盗賊スキルを教えてやってんのは誰だと思ってんだ!」
「じーちゃんと、ひーじーちゃんですケドそれが何か?」
「……おれだって教えてるだろーが、旅に出てない間は」
「まあね。トラップは教え方が悪いから、あんま参考になってないけどね!」
「んだとぉ!?? このガキ、人が下手に出てりゃ付け上がりやがって!」
「ぎゃー! いつ下手に出たんだ、このクソ親父ー!!」

 くぉの! かわいくねぇぇーなぁ!!


 父の日。
 なのに、八歳の娘と取っ組み合いのケンカをしている、おれ。
 ……ちくしょう。

 この娘は、まー、認めたかねぇがおれとそっくりだ。
 髪の色だけは女房似だが、年のわりに口が達者なとこといい、何かとトラブルを起こすとこといい…
 クレイんちの息子に、えらい世話になってるらしい。
 親になって親の気持ちがわかる、っつーのは本当だなー。手を焼かせやがる。
 弟のほうは逆に髪の色だけおれに似て、瞳の色や性格なんかは女房にそっくりなんだが。
 この娘は、まったく。

「一体、何が気に入らねーんだ?」
「はぁ?」
「おれが数日前にお宝探しの旅から帰ってきてから、おめぇ、ずーっと避けてたろ、おれを」
「……」
「なのに今日になって妙~にからんできやがって。何が言いてーんだ? ん??」
「…べつに」
「言わねーとキスするぞ」
 たいして広くもねぇ部屋のなか。
 娘をガシッと、後ろから抱える。
「やだやだ! セ・ク・ハ・ラ!」
「親子でセクハラも何もあるかぁー!」
「子どもにも人権はあるんですぅー!」
「残念だが親の愛を拒む権利はねぇな。ほれキスしちゃるぞー」
「いやぁだぁぁ! 母ちゃん、ばーちゃん助けてぇー!!」
 何もそこまで嫌がることねーだろ……
 軽くショックを受ける。
 …小せー頃は、ちゅっちゅちゅっちゅと、向こうからやってくれたっつーのに!
 くそー。ちっと離れてる間に大人になりやがって!
 そんなことを考えていたために静かになったおれを、不思議に思ったんだろう。
 羽交い締めにしてやってる娘が顔だけふりかえった。
「あれ? トラップ、泣いてんの?」
「泣いてねぇーよ!」
 顔をそらす。
 それをどう思ったのか、娘がおとなしくなる。
 おれも黙って、娘から手を離した。
 ぽすん、と。おれの膝のうえにおさまる娘。
 後ろ姿は、やっぱりまだ小せぇ。
「だってさ」
 ぽつりと出す声が、迷子になったときの女房を思い出させた。
「帰ってこなかったじゃん」
「はあ? 誰が」
「…父ちゃん」
 久しぶりにこいつから父ちゃんと呼ばれた。
「あんでだよ、ちゃんと帰ってきてんだろーが」
「でも五月は帰ってこなかった」
「そりゃあ…こなかったけどよ」
 盗賊団を引き連れての今回のお宝クエストは、ロンザを出ての遠い旅。
 帰るまでに約二ヶ月かかっちまった。これでも早いほうなんだが。
 当然、先月の五月は、ここにはいなかった。
 五月………と、いやあ。

「おれの誕生日か」

 娘の両肩が、ぎゅうっとすぼまる。
 そういえば女房に聞いたっけな。
 こいつと息子、二人でこっそり、おれの誕生日パーティーを計画してたんだって。
 でも結局おれは帰ってこなくて。
 ……そうか。
 それで怒って、おれを避けてたんだな。

「悪かったな」
 ぽんぽん、と頭をなでてやると、娘はぶんぶん、と首をふった。
「ちがうの!」
「何が」
「父ちゃんが謝ることないの!」
「だってよ…」
「そりゃ父ちゃんが帰ってこないのは悲しかったし腹が立ったけど、だって、しょーがないじゃん!」
「…んじゃ、おめー。何が気に入らねぇんだよ?」
 くい、と髪を引っ張ると、娘は、キッとおれをにらみつけた。

「わたしも連れてって!」
「はぁ?」
「だぁーら、次の旅は、わたしも連れてけっつってんの! このクソ親父!」

 こいつは本当におれにそっくりだ。
 だぁーら、こいつの言葉をこのおれなりに解釈しよう。
 たぶん、この娘は。

「ケケッ。…そんなに、おれと一緒にいたいのかぁ~?」

 思いっっっきり、顔をそらす娘。
「そんなわきゃないでしょ! ただ盗賊としてどこまでできるのか、自分をためしたいの!」
 ほほう。ご立派なこって。
 けどウソだな。
 ……おれにも覚えがある。

 誕生日だって、いつだって、一緒にいたくて。
 けど、冒険の旅に出て戻ってくる父ちゃんが、誇らしくて。
 だぁら、望むのは。

 一緒に冒険を。

 素直じゃないおれにそっくりな、素直じゃない娘の愛の言葉。
 ……なかなか良いプレゼントじゃねー? 父の日の。

「なにニヤニヤ笑ってんのよ、クソ親父!」
「そっちこそ。なんで怒ったツラしてんだ、クソガキ」
「ガッ、ガキ扱いしないでよ!」
「立派なガキじゃねぇーか、八歳児」
「なにを~!? トラップなんか、立派な父ちゃんじゃないくせに!」
「あんだとぉ!? オトウサマを崇めろ! 敬え! 奉れ!」
「やだもん! 父親らしいこと、ろくにしてないくせに!」
「ああ~~~!??」

 結局、取っ組み合いになっちまう。
 ま、それもまた良しだな。
 避けられるよか、ずっとマシだ。

 父の日。
 それは父親に感謝を捧げる日。

 けど今のおれにとっちゃ、それ以上に。

「てめぇ、本気でキスしたるぞ!」
「やだぁー! そんなの母ちゃんにすればいいじゃん!」
「ばぁーか。母ちゃんとは、おめぇらが寝たあとにゆっくりしてるんだよっ」
「ちょっ…! トラップ、子どもに何話してんのよ!?」
「あ、母ちゃん、助けて!」
「お母さー…あれ? お父さんとお姉ちゃん、プロレスごっこ? 仲良しだね~」
「あんたは黙っ…」
「そーなんだよ、おれたち仲良しだからキスしちゃうんだよなぁー?」
「しーなーいーってばぁぁ!! クソ親父!!」
「うっるせぇ、クソガキ~」

 父の日。
 それは父として、家族に愛を感じる日。
 とくに、かわいくねー、娘に対して。

「ったく、やられるぐらいなら、こっちからやってやる! ほら父ちゃん、ほっぺ出して!」



 ちゅっ。





* * * * *


父の日中に間に合わなかった……!
まあ書こうと思ったのが当日の夕方だったから仕方ないか。

というわけでパパトラと娘トラでした。
娘と息子、名前はなんていうんでしょうね。
そういえば女房も、なんて名前なんでしょうね(笑)

勝手な未来捏造設定。
苦手な方、いらっしゃったら申し訳ありません。

とりあえず親バカなトラップを書きたかったんです。


at 02:05│
梅雨入りしたそうですが父の日