2007年03月31日

ゴールは遠いトラパスSS

紅の人


「いてっ! いてていででで!」
「動かないでくださいよ、トラップ」
「てめーこそなぁキットン、もうちょい優しくやりやがれ! っつぅぅ……!」
 あああ……痛々しい。

 トラップの顔には今、無数の紅い線が走っている。
 クエストの最中、珍しくすりむいちゃったんだよね。
 バランス崩して頭から地面に突っ込んで。
 ……突っ込ませた原因は、わたしなんだけど。
 ええ、実は危ないところを助けてもらったんです。はい。
 そういうわけだから、キットンが消毒薬をつけるのにいちいち悲鳴をあげるトラップを、平然と見てはいられなかった。
 ううう。


「ちょっとキットン、もう少し優しくやってあげられないの?」
「わたしはこれ以上ないくらい優しくやってますよ。パステル、あとはよろしくお願いします」
「へ??」
 ぽむ、と手にのっけられたのは消毒薬とガーゼ。
 えっ? まさかまさか、わたしに手当てしろって!?
「だいたい終わりましたからね。あとは細かいところを『優しく』塗ってあげてください」















「いっっっっってぇぇー!!!」
「ごご、ごめん! ごめんねトラップ!?」
「ごめんで済んだら冒険者いらねぇーぞ!! 慰謝料請求すっか、ああ!?」
「そこまで痛くはしてないー!!」
「おれの痛みはおれのもんだろがよ。おめぇにわかんのか!?」
「うぐっ……」
 難しかった。『優しく』手当てするのって。ふえーん!
 キットンがやってた時より盛大にわめき散らすトラップは、ちょっと怖いぐらい痛がって、怒る。
 ………怒ってるのかな?
 そりゃそうかも。わたしのせいでこんな傷がついちゃったんだし。



 ガーゼと消毒薬を置いて、そっと手を伸ばす。
 紅い線。
 不揃いなそれが額にも目の横にも頬にも唇の端にも顎にも。
 一つひとつをなぞって、その痛みを思う。

 うん。わからない。

 わたしのせいで、何かのタイミングが違えばわたしの体にあったかもしれない傷の痛みが、どうしてわたしにわからないんだろう?

 飛んでこい、飛んでこい。
 痛いの痛いの、わたしのほうへ、飛んでこい。



「……あに、やってんだよ」
 はっ、と気がつくと機嫌の悪そうなトラップの顔が間近に。
 あちゃあ、また怒らせちゃったかな??
 彼の両頬を包んで、目を閉じて、念じてたんだけど…
 それを話すとまた怒らせちゃう気がする。何となく。
 だからわたしは嘘をついた。
 いやいや、まるっきり嘘ってわけでもないんだけどね?

「助けてくれた時のトラップ、かっこよかったなぁって思い出してたんだよ」

 そういうとトラップは目を真ん丸くして。
 でもそれは一瞬で。
 ばっとわたしの手を振り払い、横を向いてしまった。

「嘘つけ」

 どき。
 見抜かれてる……!?
 焦る心を落ち着かせようと胸を押さえて、聞いてみる。
「…な、なんで?」
「かっこいいわきゃねえだろ」
「え? だ、だって……」
「本当にカッコイイ奴は、こんな傷作らねぇーよ」
 ぺしぺし、と傷をこさえた頬をはたくトラップ。
 口調は軽かったけど、その言葉のあとに唇を噛みしめる。
 何を悔しがってるんだろ?
 わからないから、さらに聞く。
「どういうこと??」
「だぁーら…おめぇ助けんのに怪我なんかすんの、かっこ悪ぃだろ?」
 無傷でスマートに助けられたほうが、おめぇだってカッコイイと思うんじゃねえ? といわれると。
 んーむ、そうかも……。
「しかも自分に苛立って、おめぇに八つ当たりしちまうし? カッコイイわけねーだろが」
 八つ当たり?

 ああそっか。
 この人は恥ずかしかったんだ、きっと。
 わたしを助けるために自分を傷つけてしまったこと。

「じゃあ、わたしを助けなきゃよかったじゃない?」



「ぶわぁーか。それは問題外」



 べ、と舌を出してみせるトラップ。
 あれあれ、ちょっと。
 かっこよくて、優しいんじゃない? この人ってば。

 彼の痛みをわかることは、どうしたってできない。
 だけど彼の気持ちは、ほんのちょっとわかった。
 それが嬉しい。



「じゃ、ちゃっちゃっと消毒終わらせようね!」
「ああ? もう終わったんじゃねえの?」
「もうちょっと」
「……実際、痛ぇんだぜ、おめーの手当て」
「う。気をつける…」
 消毒薬とガーゼを持って。あらためて彼と向かい合う。
 紅い傷だらけ。

 うん。カッコイイ。

「なんだよ、ひとの顔まじまじと見やがって。おれに惚れたか?」
「あはははっ。うん、そうかもね!」
「へ……」
 なーんて。そんなわけないけどねっ。
 とりあえず今は。
 すかさずトラップの顔に消毒薬をつける。
 べちゃ、と音がしたのと同時に、今日一番の悲鳴があがった。
 あっちゃー……

「いてええええええええええええ!!!!!」





* * * * *


タイトルは紅の豚からきてます。カッコイイとは、こういうことだ。
……明らかに豚のほうがカッコイイ気がする!(爆)
痛がるトラップから始まり痛がるトラップで終わるSS。
パステルにトラップのお手当てをしてもらいたい一心で書き始めたら、
何かよくわからない話になりました。
でもトラップをいたぶることができたから、いいか。(いいのか!?)
何があってトラップがこんな無様な傷を負ったかは、わたしは知りません。




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